無断引用禁止、無断複製禁止、無断転載禁止のように、権利者がコンテンツの無断利用を禁止する意思表示をしていることがあります.
一方、著作権法には、私的利用のための複製や引用のための複製のように、無断で利用されない権利の例外が定められています.
これらの例外規定に従えば、権利者の承諾なしで「引用」できます.
しかし、「引用」を禁止する契約が締結された場合に、権利者に無断で「引用」したらどうなるのか?
著作権法のオーバーライド問題
著作権法に規定されている例外規定を契約書で覆す「オーバーライド」は、その有効性について答えはありません.
オーバライドが規定されている契約書のレビューを専門家に依頼してもグレーとしか判断することができません.
契約書の内容と法律の内容が相反する場合、契約書の内容が優先されるのが原則です.
例外として法律の内容と相反する契約書の内容が無効となることのは、法律に規定されている内容が強行規定の場合です(民法91条).
私的利用の複製や引用のための複製を定めている著作権法上の規定が強行規定と解釈すれば、契約書によるオーバーライドは無効です.
一方、任意規定であればオーバーライドは有効です.
さらに、契約の内容が公序良俗違反(民法90条)に該当すればオーバーライド契約は無効です.
オーバーライド契約の有効性を判断する方法は確立されているものの、私的利用のための複製や引用のための複製が強行規定なのか任意規定なのかが不明である現在、オーバーライドの有効性については有効とも無効とも判断できないのが実務です.
オーバーライド契約は有効
私的使用のための複製や引用のための複製が任意規定か強行規定かの司法判断が示されないかぎり、オーバーライド契約は有効なものとして対応するしかありません.
もっとも、オーバーライド契約を締結しているにも関わらず、無断で複製した場合は、債務不履行責任を負うことはあっても著作権法違反にはなりません.
渉外契約の準拠法
強行規定か任意規定か判断できない、というのは日本の著作権法に対しての実務です.
契約当事者が外国人の場合、準拠法が日本法であることは稀です.
準拠する国の法律によっては、私的使用のための複製や引用のための複製に対して権利者の権利行使を制限するという日本のような立法ではなく、私的使用のための複製や引用のための複製を権利の対象となる行為に含めない、という立法を採用しているかもしれません.
法律上、権利の対象に含めない行為の扱いについて当事者間の契約で決めるというのは、日本を初めとして当たり前に行われている商行為です.
当事者間の合意により自由に内容を決めているのですから、契約を締結したあとに有効性を争うというのではなく、内容に不満がある契約は締結しないことです.